林檎とフクロウ

故きを温ねて新しきを知る――哲学や宗教学などの人文科学を読み解き、生きる道を見出すことを目的としたブログです。

仏教における地獄を調べてみたpart5

地獄のも残すところ1つとなりました。

最下層の無間地獄です。無間という名に相応しく、この地獄は縦横それぞれ8万由旬あるとされています。

広大な敷地面積には、様々な”設定”が生息しています。

見ていきましょう。

f:id:kanzash_kito:20200816211338j:plain

 

仏教における地獄と無間地獄

殺生・盗み・邪淫・飲酒・妄語・邪見・犯持戒に加えて、「父母殺害」「阿羅漢(小乗仏教における聖者)殺害」など、仏教における最も重い罪を犯した者が落とされます。

地獄の最下層に位置します。

最下層ゆえ、この地獄に到達するには、真っ逆さまに(自由落下速度で)落ち続けて2000年かかると言います。

無間地獄の苦痛は大阿鼻地獄の苦の1000倍もあると言われ、7つの地獄でさえ、無間地獄に比べれば夢のような幸福であるといわれています。

烏口処

阿羅漢(小乗仏教の最高指導者)を殺した者が落ちます。

獄卒が罪人の口を裂いて閉じないようにした上、沸騰する泥の河に落とします。溺れた罪人は泥の熱で内臓まで焼かれます

一切向地処

とりわけ尊い尼僧や阿羅漢を強姦した者が落ちます。

頭を上にしたり下にしたり、くるくる回転させられながら、炎で焼かれ、また灰汁の中で煮られます。

無彼岸常受苦悩処

自分の母親を犯した者が落ちます。

鉄のかぎでへそから魂を取り出され、その魂に鋭い棘を刺されます。そのあとへそに鉄の釘を打たれ、口に高熱の鉄を注がれます

野干吼処

優れた智者、悟りに達した者、阿羅漢、などをそしった者が落ちます。

野干とはジャッカルないし狐のことで、鉄の口を持つ火を吐く狐が罪人に群がり、手、足、舌など罪のある部分を次々に食いちぎります

鉄野干食処

仏像、僧房など僧侶の身の回りの品を焼き払った罪人が落ちます。

身体から火が吹き出し、空から鉄の瓦が雨霰と降り注ぎます。鉄の狐が罪人を喰います。

黒肚処

仏に属する物品を喰ったり自分のものとした者が落ちます。

罪人たちは餓鬼道さながらに飢え渇きに苦しみ、ついには自分の肉まで喰ってしまいます。さらに、黒い腹の蛇が罪人を足の甲から喰います

無論、喰われた部分は何度でも再生します。

身洋処

仏に捧げられた財物を盗んだ者が落ちる。

燃え上がる二本の巨大な鉄の木の間に地獄があり、風で鉄の木が揺れて擦れ合うたびに、間にいる罪人たちを粉々にします

その肉片は金剛のくちばしの鳥に喰われます

夢見畏処

僧侶達の食料を奪い、飢えさせた者が落ちます。

鉄の箱の中に座らされ、杵でつかれて肉の塊にされます

身洋受苦処

篤志家が出家者や病人に布施した財物を僧侶を装って奪い取った者が落ちます(篤志家とは社会奉仕・慈善事業などを熱心に実行・支援する人)。

高さ100由旬の燃える鉄の木の下にある地獄で、この世の全ての病が罪人を苦しめます

雨山聚処

辟支仏(菩薩より価値が低い仏)の食物を奪って喰った者が落ちます。

巨大な鉄の山に何度も押しつぶされます。勿論、潰されたらすぐまた生き返るので、同じ苦しみが続きます。

また、獄卒に身体を引き裂かれ傷口に高熱の液体を注がれます

加えて、人間界にある全ての病が罪人を苦しめます

閻婆叵度処

田畑の水や飲み水の水源である河などを破壊し、人々を渇死させた者が落ちます。

象の様に巨大で火を吐く閻婆(閻婆度)という鳥が、罪人をくわえて高空から落とします

地面には無数の鋭い刃が出ており、炎の歯を持つ犬に噛まれます

星鬘処

修行によって飢えている僧侶から食料を奪った者が落ちます。

正方形の地獄で、二つの角に大きな苦しみがあります(一方では釜の中で回転させられながら煮られ、もう一方では剣が混ざった激しい風にずたずたにされた後、釜の中で溶けた銅で煮られます)。

苦悩急処

仏教の説を伝えるための書や絵画などを歪めたり破損したりいたずらしたりした者が落ちます。

獄卒が罪人の両目に溶けた銅を流し込み、その両目を熱砂ですり減らし、さらに身体の他の部分も同様にすり減らします

臭気覆処

僧達の田畑や果樹園、その他彼らに帰属すべき物を焼いた者が落ちます。

無数の針が生えた燃え上がる網に捕らえられ、体中刺し貫かれながら燃やされます。その後、矢で射られた後、サトウキビで叩かれます。

鉄鍱処

食料などが不足する貧しい時代に僧侶達の面倒を見ると言っておきながら、何もせずに飢えさせた者が落ちます。

数多くの炎に取り囲まれ、餓鬼のごとく飢渇の苦しみを与えられます

十一焔処

仏像、仏塔、寺舎などを破壊したり燃やしたりした者が落ちます。

獄卒たちが鉄棒を持って追いかけ、罪人たちは蛇に噛まれたり炎に焦がされながら逃げ続けます

火車地獄

観仏三昧海経に伝わっている小地獄です。

対象は不明

乗り物の方の”火車”で罪人が連れてこられ、巨大な炎の車輪に縛りつけられて燃やされます

鑊湯地獄

経律異相には鑊湯地獄の存在が説かれており、現世で罪を犯した人間が釜茹でされると説きます

詳細は不明。

鉄刺林地獄

鉄の棘が生えた木の生える林の地獄

大智度論」ではそれぞれの八大地獄の十六小地獄のひとつとされ、邪淫を犯した者が落ちると言います。

「大毘婆沙論」では四小地獄の鋒刃増の一つとして現れます。

 

仏教における地獄と灰河地獄

偽経の「善悪因果経」には灰河地獄が紹介されています(偽経とは、西域や中国・日本などで俗信や正統仏教とは別の思想を取り入れて偽作された経典)。

鶏の子を焼き煮た者が落ちるとされます。

熱い灰が川のように流れていると言われています。

日本霊異記今昔物語集『往生要集』にも登場します。しかし仏教学者の石田瑞麿はあくまで八熱地獄に該当するものではないと推測しています。

 

仏教における地獄と長阿含経

原始仏教の経典である阿含経では、地獄は、八熱地獄十地獄に大別され、八熱地獄に付随する小地獄は全て共通の十六種類であるとされます。

八熱地獄

現在と異なり、八熱地獄は階層構造ではなく、十地獄ともども世界をぐるりと取り囲む形で配置されています。

その名は第一地獄から順に、想地獄、黒縄地獄、堆圧地獄、 叫喚地獄大叫喚地獄、 焼炙地獄、大焼炙地獄、無間地獄となっています。

想地獄は現在の等活地獄焼炙・大焼炙地獄は焦熱・大焦熱地獄に対応していると考えられていますが、具体的な内容は不明。

小地獄

八熱地獄に付随する小地獄もまた、現在の説と異なり全ての地獄で共通の十六種類が付きます。

それぞれ黒沙、沸屎、五百釘、飢、渇、一銅釜、多銅釜、石磨、膿血、量火、灰河、鉄丸、釿斧、犲狼、剣樹、寒氷と言います。

具体的な内容は不明。

十地獄

また別に十地獄が存在します。

それぞれ厚雲、無雲、呵呵、奈呵、羊鳴、須乾提、憂鉢羅、拘物頭、分陀利、鉢頭摩と言います。

罪の軽重などの落ちる条件、地獄の内容など、具体的な事は不明

 

仏教における地獄と八寒地獄

倶舎論正法念処経では、八熱地獄の周囲ないし横に八寒地獄があるとされています。

八寒地獄にもそれぞれ十六小地獄があると言われているが、具体的な内容は伝わっていません

頞部陀地獄

八寒地獄の第一。

寒さのあまり鳥肌が立ち、身体にあばた(痘痕)を生じます

尼剌部陀地獄

八寒地獄の第二。

鳥肌が潰れ、全身にあかぎれが生じます

頞哳吒地獄

八寒地獄の第三。

寒さによって「あたた」という悲鳴を生じるのが、名前の由来。

臛臛婆地獄

八寒地獄の第四。

寒さのあまり舌がもつれて動かず「ははば」という声しか出ないとされます。

虎虎婆地獄

八寒地獄の第五。

寒さのあまり口が開かず「ふふば」という声しか出ないとされています。

嗢鉢羅地獄

八寒地獄の第六。

嗢鉢羅は「青い睡蓮」を意味するサンスクリットの音写です。

全身が凍傷のためにひび割れ、青い蓮のようにめくれ上がる事から「青蓮地獄」とも呼ばれます。

鉢特摩地獄

意訳で「紅蓮地獄」とも呼ばれる八寒地獄の第七。

鉢特摩は「蓮華」を意味するサンスクリット の音写です。

ここに落ちた者は酷い寒さにより皮膚が裂けて流血し、紅色の蓮の花に似るといいます。

摩訶鉢特摩地獄

意訳で「大紅蓮地獄」とも呼ばれる八寒地獄の第八。

八寒地獄で最も広大とされています。

摩訶は「大」を意味するサンスクリットの音写です。

ここに落ちた者は、紅蓮地獄を超える寒さにより体が折れ裂けて流血し、紅色の蓮の花に似るといいます。

 

最後に

いかがだったでしょうか?

無間地獄は比類なき苦しみを与えられる地獄だけあって、かなりシンプルな内容が多く見受けられますね。

一方で、八熱地獄のお隣さんである八寒地獄は不明点が多く、いまいちイメージも出来ません。八熱地獄の設定を考えて燃え尽きてしまったのでしょうか。八熱地獄だけに。

ともあれ、下手な怪談よりも身の毛がよだつ地獄の面々に、少し肝が冷えた夏の日でした。八寒地獄だけに。