密教(真言宗)を調べてみた
前回、修験道を学ぶ中で”密教”や”真言宗”という単語が出てきました。
見ていきましょう。
密教と概要
密教とは、秘密の教えを意味し、一般的には、大乗仏教の中の秘密教を指し、秘密仏教の略称とも言われます。日本では、密教といえば空海を開祖とする真言宗や、密教を導入した天台宗を指します。
密教と顕教
顕教・・・衆生を教化するために姿を示現した釈迦如来が、秘密にすることなく明らかに説き顕した教え。
密教・・・真理そのものの姿で容易に現れない大日如来が説いた教えで、その奥深い教えである故に容易に明らかにできない秘密の教え。
真言宗と概要
真言宗は、空海によって9世紀初頭に開かれた、大乗仏教の宗派で日本仏教のひとつ。
空海が長安に渡り、青龍寺で恵果から学んだ密教を基盤としています。
教王護国寺(東寺真言宗総本山)を真言宗の総本山としています。
真言宗の歴史
起源
806年、空海が中国(唐)より、帰朝。その後、空海は、816年に高野山金剛峯寺を修禅の道場として開創し、823年に嵯峨天皇より勅賜された教王護国寺(東寺)を真言宗の根本道場として宗団を確立しました。
東寺と金剛峰寺
空海は入定に際して、住持していた寺院を弟子に付嘱しました(入定とは真言宗に伝わる伝説的信仰で、弘法大師空海が永遠の瞑想に入っているという信仰のこと)。
その後、観賢という僧が東寺長者・金剛峯寺座主を兼ね、教王護国寺東寺を本寺とし、金剛峯寺を末寺とする本末制度を確立しました。
真言宗と解体
1900年9月、真言宗高野派(金剛峯寺)・真言宗御室派(仁和寺)・真言宗大覚寺派(大覚寺)・真言宗醍醐派(醍醐寺)・新義真言宗智山派(智積院)・新義真言宗豊山派(長谷寺)・律宗に対して明治政府が独立を認可しました。
さらに、1907年(明治40年)、真言宗東寺派(東寺)・真言宗山階派(勧修寺)・真言宗泉涌寺派(泉涌寺)・真言宗小野派(随心院)が独立し、真言宗は解体されました。
真言宗各派の独立により、東寺を真言宗の総本山とする制度が終焉しました。
真言宗と大師信仰
宗祖・空海(弘法大師)に対する信仰で、入定信仰や遍路巡拝(四国遍路)などが挙げられます。
入定信仰
921年、醍醐天皇はお大師さまに「弘法大師」の諡号(しごう)を贈られました。この時、東寺長者の観賢(かんげん)はその報告のため高野山へ登られました。奥之院の廟窟を開かれたところ、禅定に入ったままのお大師さまに出会われ、その姿は普段と変わりなく生き生きとされていたと伝えられています。この伝説からお大師さまは、今も奥之院に生き続け、世の中の平和と人々の幸福を願っているという入定信仰が生まれました。
遍路巡拝
四国各地の、お大師さまの旧蹟を尋ねて、遍路修行を行うことです。昔は、お寺に札所番号はなく、大師ゆかりの史跡を巡り、木札や金のお札をお寺の建物に打ちつけて、お参りの証にしていたそうです。したがって現在でも、札所を巡ることを「打つ」と呼ばれる方もいます。
真言宗と教理
真言宗の教理として六大縁起の教え、 両界曼荼羅、三密修行と、即身成仏が有ります。
六大縁起
それぞれに性質と作用を持つ六大(地・水・火・風・空・識)が大日如来の本質として実在し、また世間の生物や事物としても実在して、相互に無碍融通しながら万法に偏在しているさま。
両界曼荼羅
「胎蔵界曼荼羅」、「金剛界曼荼羅」の2つの曼荼羅を合わせたもの。
胎蔵界曼荼羅は、大日如来さまを中心に、たくさんの仏さまが集まっていて、これは考え方の違う人や生き方をすべてみとめて「あなたと一緒にいたい」と「肯定」する大きな世界が表現されています。
金剛界曼荼羅は、全体が9つに区切られていて、上段中央に大日如来さまが描かれており、9つの区切りは大日如来の知徳の世界を表しています。ここには、どういう結果でも、その結果になった原因があるのだから「その原因やプロセスを正しい智慧でもって見極めて弁別していこう」とする分別の世界が表現されています。
三密
即身成仏
即身成仏は、仏教の修行者が「行」を行うことを通じ、この肉身のままで究極の悟りを開き、仏になることです。
真言宗と教学
教学として、大日経の教学と、金剛頂経の教学、2つの お経で説かれる教えが、 根本所依とされます。
他にも以下のような教典・著作を教学とします。
所依の経典
論疏(論文の類)
空海の著作
- 秘密曼荼羅十住心論
- 秘蔵宝鑰
- 弁顕密二教論
- 即身成仏義
- 声字実相義
- 吽字義
真言宗と八祖
密教がインドで起こり、中国を経て、空海(弘法大師)に伝えられ、日本で独立した宗派として真言宗を開くまでに、八祖を経て伝えられたとする伝承があります。
これを真言八祖と言います。
付法の八祖と伝持の八祖の二つがあります。
付法の八祖
真言宗の法流の正系を示しています。
教主大日如来の説法を金剛薩埵が聞いて教法が起こり、真言宗の教えが伝わった系譜です。
伝持の八祖
真言宗の教えが日本に伝わるまでの歴史に関わった8人の祖師。八祖大師とも称されます。
- 龍猛菩薩 : 大日如来の直弟子金剛薩埵から密教経典を授かって、世に伝えたといわれている(三鈷杵を右手に持っている)。
- 龍智菩薩 : 龍猛から密教を授かった(経文を右手に持っている)。
- 金剛智三蔵 : インドで龍智から密教を学んだのち唐へ渡り、『金剛頂経』を伝える(数珠を右手に持っている)。
- 不空三蔵 : 西域生まれ。貿易商の叔父に連れられて唐へ行き、長安で金剛智に入門。『金剛頂経』を漢語に翻訳し、灌頂道場を開いた(外縛印を結んでいる)。
- 善無畏三蔵 : インド生まれ。大乗仏教を学び、さらに密教を受け継ぐ。80歳になって唐に渡り『大日経』を伝える(右手の人さし指を立てている) 。
- 一行禅師: 中国生まれ。禅や天台教学、天文学、数学を学ぶ。長安で善無畏に入門し、善無畏の口述をもとに『大日経疏(だいにちきょうしょ)』を完成させた(法衣のなかで印を結んでいる)。
- 恵果阿闍梨 : 中国生まれ。金剛界・胎蔵界両部の密教を受け継いだ(椅子に座り、横に童子を待らせている)。
- 弘法大師 : 恵果阿闍梨から金剛・胎蔵界両部を授けられ、日本に伝えて真言密教を開いた。空海(五鈷杵(ごこしょ)を右手に持ち、左手には念珠を持っている)。
真言宗と事相と教相
真言密教を学んでいくうえで、事相と教相が重要視されます。
事相とは、真言密教を実践する方法、すなわち修法の作法(灌頂・護摩・観法・印契・真言などの行法)を指します。
これに対し、教相とは真言密教の理論です。
『金剛頂経』は事相の経典で、『大日経』は教相の経典とされます。
事相・教相の両方を学ばなければ、真言密教が理想とする境地への到達は出来ないとされています。
最後に
密教では今生きているうちに成仏できる可能性があると説きます。それには修行が必要であると言います。この点が修験道との親和性が良かったのだと私は考えます。
また、そのような考え方故に多くの人々に受け入れられたのだと思います。